前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
折角なんで先輩と教室で昼食なんかも取っていたりする。
女クラで飯を食うってのも、これまた勇気がいるんだけど、先輩のクラスメートは気を遣ってくれる人達ばっかりだ。
殆どの人は俺の存在に茶々を入れない。先輩の人柄がいいんだろうな。
みんな俺達の仲を応援してくれる。俺達というより先輩を応援している。
時間を邪魔しないように俺達に挨拶をする程度で、先輩達は自分達の思い思いの時間を過ごしている。
先輩のお友達様は俺達に話し掛けてきたりするんだけどさ。
「おーおー鈴理。また押し倒しに失敗しちゃって」
「とても微笑ましいことですわ」
ほら、こんな風にな。
俺達の様子を遠巻きに見ていた先輩のお友達。
川島 早苗(かわしま さなえ)先輩と宇津木 百合子(うつぎ ゆりこ)先輩が笑声を漏らしている。
川島先輩と宇津木先輩は鈴理先輩と一番仲が良い。本人達もそう言っていた。
親友なんだって。
『ですわ』口調の宇津木先輩は鈴理先輩と同じ財閥の娘だそうな。
すっげぇ優しいんだ、この人。
話しているだけでほんわかな気持ちになる。
ただ極度の不思議ちゃんなんだ。
時々会話についていけない。
対照的にちょっと口調がガサツな川島先輩は俺と同じ一般人。
でも令嬢の二人と仲が良い。
笑い上戸で何に対しても直ぐに笑う気さくな人。
嫌いじゃないよ、こういう人。
なんか一緒にいて楽しいし、素の自分が自然に出せる。
友達二人に笑われて鈴理先輩はフンと鼻を鳴らした。
「失敗ではない。空が照れるのが悪いんだ。空はいつになったらあたしに食われてくれるんだ? 晴れて恋人となったというのに」
「だ、だから。まずは健全的なお付き合いをしましょうって」
「まず。ということは、いつかは食われてくれるのだな? 今日か? 明日か?」
いや、そういうことでもなくって。今日でも明日でもなくって。
額に手を当てて溜息をつく俺に川島先輩が膝を叩いて笑う。