前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「待て待て待て空。あんた、ショートケーキは? ガトーショコラは? モンブランにタルト、チーズケーキ、ミルフィーユ。ええい、ザッハトルテにドボシュ・トルテ、ティラミス! パンドーロ! そういったものは?!

何か一つは食したことがあるだろ!

さすがのあたしもホットケーキを空に作ってやるのは胸が切なくなる、もっと別のを食わしてやりたくなるか、あたしがあんたを食べたい」


「どさくさに紛れて何を言っているんすか! それに記憶上、俺の知るケーキって、ホットケーキしか食ったことないっすよ。先輩が挙げてくれたケーキ前半の名前は聞いた事がありますけど、後半はただの外国語にしか聞こえなかったっす」


途端に鈴理先輩が涙ぐんで俺を抱き締めてきた。

これはもしかして同情の抱擁というヤツなのだろうか。

ショートケーキやガトーショコラも口にできない貧乏人は可哀想だって。


確かに食ってみたいと昔から思っていたけど、ホットケーキだって負けず劣らず美味いと思うんだ。

うん、ボリューム満点だし、安くて沢山作れるし、自分で分量も調節できるし。

先輩の言ったケーキは食ったこと無いけど、ホットケーキも美味い、美味いよ。


「あの、先輩」


おずおずと声を掛ければ、先輩が俺の両肩に手を置いて真っ直ぐ俺を見てきた。


「空。ホットケーキではな、ホットケーキでは……生クリームプレイができないではないか! 生クリームプレイはケーキのお約束だぞ!」

「そ、そっちで涙ぐまれていたんっすか!」


どういう意味の涙っすか、それ。

しかもケーキのお約束ってアータ、普通に食べられたいケーキはそんなお約束されても困るだろうに。


引き攣り笑いを浮かべる俺に、

「あ、そっか」

先輩は自己完結するように手を叩いた。


「ホットケーキには、はちみつやバターが付き物だな。あれでプレイ……しかし、あたしとしてはケーキはまず生クリームでヤッてみたいと」


なにが“まず”なのだろうか。“まず”ということは“次”もあるってことだよな!

あははっ、想像するだけでオッソロシイ!

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