前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「食べ物で遊んだら罰当たるっすから!
何でもかんでもプレイという教育上に宜しくない思考へと持っていかないで下さい。先輩、少しは純愛というものを楽しみましょう」
「純愛?」
「そうっす。一応俺達、恋人になったんっすから、こうもっと恋人らしい、あ、そういうイカガワシイことじゃなくって。学生らしい恋人の時間を。
例えば放課後にデートとか。
うーん、俺、金がないんで散歩程度になるかもしれないっすけど。
ほら、よくドラマであるじゃないですか。初々しい学生カップルは放課後に空き教室で」
「あれよあれよと淫らな行為に走る。あたしの読む小説は大体そういう展開が多い」
「………………それは先輩の読んでいる小説に問題ありっす」
R指定のを平然と読んでいるようだけど、先輩まだ十七歳でしょーに。
R指定ってのは十八歳以上の人が楽しんでナンボのものだと。
いやさ、十七も十八も変わらないと言われたら、それまでだけど。
とにかく俺が言いたいのはそこじゃなくて。
もっとゆっくりと二人で話す機会を設けたいわけだ。
じゃないとお互いが分からないというか、俺も先輩がどんだけ好きで意識しているのかが分からない。
……恋人になって、先輩、過激になったような気がするんだよな。
気のせいだと思いたいけど、真っ昼間からプレイプレイと発言している時点で何か、なあ。
純愛を語る俺をキョトンとしていた顔で見ていた鈴理先輩は、ニコッと笑顔を作って俺の両肩を両手でトントンと叩く。
「空。うちはうち、よそはよそだ。周囲と比べては恋愛も楽しめないぞ?」
これだもんな。
恋愛小説が大好きなくせに周囲のリアル恋愛はあんまり興味が無い上に、純愛より欲望を取るんだから、俺は苦労する。
頭を抱える俺を余所に、鈴理先輩は思い出したように机に掛けていた通学鞄を手に取って膝の上に置いた。
パチッと留め金を外して中に手を突っ込み、何やらガサゴソガサゴソ。
そして手を引っこ抜き、持っていたそれを俺に差し出してきた。
俺は瞠目する。
先輩が差し出してきたのは真新しい携帯電話。色は白。種類は折り畳み式のガラケー。
持ったことも無い通信機具を差し出され、俺は思わず先輩を見つめる。