前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「受け取って欲しいんだ」
微笑を零す先輩にこれは既に契約済み、直ぐに使えると教えてくれる。
受け取れと言われて受け取れるほど、これは安価なものじゃない。寧ろ高価だ。高価。
俺は戸惑ってしまった。
「これを空に渡したくてな。今日は教室で昼食を取らせてもらったんだ。弁当や菓子のこともあるが、一番はこれを渡したかった。空に受け取って欲しい」
「でも先輩、これはちょっと」
「分かっている。空がそう簡単に受け取れないのは。一応説明すると本体や月の料金のことは気にしないで欲しい。父が携帯会社と契約しているんだ。故に竹之内家では携帯料金の殆どがタダなんだ。あたしの携帯もほぼタダに近い。時折有料サイトを使うため料金も発生するが……殆どタダだ」
すげぇ竹之内財閥。
そして竹之内先輩、有料サイトってどんなサイトか気になるのは俺だけ?
いやいやいや健全な有料サイトだって俺は信じていますよ。
「金の問題はない。しかし空の立場を考えると携帯を軽々しくやるという行為は、あんたの家庭に同情しかねない。あたしは同情をしているわけではない。どの家庭にも事情というものは存在するものだ。それをあれこれ言うなど道理に反する。そうじゃないか?」
「鈴理先輩」
「だからこれは空に貸すことにする。やるんじゃない。これはあんたに貸す。空がいつか携帯を持つ日まで。空が携帯を持ったら返してくれればいい。この携帯にはあたしの電話番号とメールアドレスが入っている。
いつでも連絡してきて欲しいし、連絡をしたら出て欲しい。
ケーキのこともそうだったが、ケーキの件で疑問に思い、何が好みか空に連絡をしようとしても、空の連絡先を知らなかった。恥ずかしながらその時、初めて気付いた。
常に空の声が聞きたいし、連絡を取り合いたい。そう思うあたしの我が儘に付き合ってくれないか? 空」
笑顔を見せる鈴理先輩に、俺は鼓動が高鳴った。顔に熱が集まっていく。
反則だよな。
いつも常識外れの発言ばっかりしては俺をタジタジにさせているのに、こういう時は一歩俺の前を立ってリードするんだから。
女の子特有の笑顔を見せながらそんなことを言われて、嬉しくない奴なんていないって。
差し出された真っ白な携帯に目を落とし、俺は一呼吸置いて、それを手に取った。