前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「ま、いいんじゃねーの? 空が幸せならさ。人前で堂々とキスするくらい幸せなんだろ? 俺もそのシーン見ちゃったんだよ。いいよな、美人彼女にあんなことされて」
アジくんの茶々に俺は恥ずかしさのあまり爆発しそうになった。
いっそ穴があったら隠れてしまいたい。
「僕もそう思うよ」
ニヤリと笑うエビくんは眼鏡のブリッチ部分を軽く押した。
だけど次の瞬間、やや真剣な顔を作って俺に「気を付けて」と忠告。
何が気を付けてなのか分からない俺とアジくんに、エビくんは周囲をグルッと見渡して声を窄めた。
「先輩にはさ。熱狂的ファンがついているんだ。『鈴理さまお守り隊』という親衛隊がいるらしいよ。空くんが竹之内先輩と恋人になった今、親衛隊が黙ってくれているかどうか」
熱狂的ファン。
親衛隊……嗚呼、想像するだけで背筋が凍りそう。
鈴理先輩の熱狂的ファンだの、親衛隊だの、そんなヘンチクリンなものがいる。
つまりそれは恋人の俺が必然的に敵になるってことじゃないか。
毎日鈴理先輩にキスされて、追っ駆けまわされて、押し倒されそうにはなっている俺を目の敵にしていると思うだけで……。
「俺、生きていられるかな」
落ち込む俺を励ましてくれたのはキング・オブ・ザ・男前のアジくん。
ニカッと俺に笑顔を向けて大丈夫だってと肩を叩いてくる。
「空は堂々としてればいいんだ。鈴理先輩と空で決めたんだろ? 恋人になるって。んじゃあ、第三者が口を出すことじゃないって。周囲の目にビクビクしていちゃ男が廃るぞ」
「鈴理先輩といると俺……時々自分が男なのかどうか疑問に思うんだけど」
「だったら尚のこと、ビクビクすんなって。こういう時こそ男を見せるチャンスだ。空は男になりたいんだろ? 『俺は鈴理先輩の恋人だ。悪いか!』ってぐらい、強い気持ちを持てよ。
大丈夫、空が良い男なのはダチの俺が保証するから。自信持てよ」
あ、あ、アジくん、君って本当に男前だぁあああ!
いいな、ほんっといいな。こういう風にサラッと言う人って!
俺もアジくんみたいに男前になりたい。
アジくんのようになれたら、きっと俺、先輩に不謹慎な言葉を言わせないどころか自分が不謹慎な言葉を言って先輩を赤面させられるんじゃ!
健全的な関係を望みたいんだけど、先輩を赤面させたいという願望はある。