前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「雰囲気作りだ。やはり雰囲気は大切だと思うぞ。ほら、次は空の番だ。『そ、そんなこと思ってないのに! 此処は保健室だよ!』はい、繰り返す」
「えーっと、『そ、そんなこと思ってないのに! 此処は保健室だよ!』って、乗せられないっすよぉおお!」
今のはノリだから、絶対にノリだって断言できる。
あくまでケータイ小説本の台詞を完読させるつもりなのか、先輩はページを捲ってまだ俺に台詞を突きつける。
こうなったらケータイ小説のような流れに持っていかないよう努力するまでの話。
「『保健室だからこそ燃えるんじゃねーの?』」
「燃えませんっす! 先輩は獰猛っすよ!」
「『相変わらず生意気な口だな。体は素直なくせに。どうする? 酷くして欲しい?』」
「酷いも何もないっす! どんな酷いことをされるのか俺には想像もつかないっす!」
「なら夢を見せてやる。あたし様のテクニックを舐・め・る・な・よ・?」
なんだかんだで完読させちまった。
最後の台詞だけ完全に先輩自身の気持ちが篭っているだろ。
鈴理先輩は嫌味ったらしく本を閉じて俺の頭の上にそれを投げる。
目で動作を見ていたその隙に先輩が首筋に唇を寄せてきた。
軽く甘噛みされ、そしてまた唇を塞いでくる。
艶かしい動作に俺はカチンコチンに固まっていた。
決してヘタレではないぞ。
どうすればいいか分からないだけなんだ。
所謂パニックに陥っているだけなんだ。
頭に回る酸素が少なくなってきた。
「ふっ」自然と声が漏れる。音に羞恥が込み上げてきた。
やばい、本当にやばい。
相手の体を押し返そうとすると、余計圧し掛かってくる彼女。
俺の顔の両横に腕を突き、更に俺の手首をベッドシーツに縫い付けてきた。
「せ、ん、ぱ」
ぺろっと人の口端を舐め、名残惜しそうに唇が離れて行く先輩は「可愛いぞ」頬を包んできた。
嬉しくない。
可愛いは嬉しくない。
呼吸を整えながら反論するけど、相手は気に素振りすら見せてくれない。