素直になれない
「まず中瀬くんって言うのはね、何て言うか…アイドル?」
席についた直後に彼女は徐に話し出した。
彼女の言葉に、他の女子達もうんうんと頷いている。
彼女の話からすると、中瀬くんはこの学校のアイドル的存在らしい。
容姿端麗、成績優秀。
おまけに両親が茶道家とピアニストで財力もあるらしい。これは確証がないため、誰かの流した噂かも知れないが。
だけど噂か噂じゃないかなんて、彼女達には関係ないんだろうな。
心底で七海は呟く。
妙に冷めてる自分に、七海自身が驚きを隠せない。
それは七海が無意識の内に、こんな少女漫画のような展開は無い、と思っているからだろう。
それにほら、少女漫画では王子様みたいな人には必ず裏の顔があるって、相場が決まっているじゃない。
彼女の話もおろか、内心でひとり頷いていると
「聞いてるの?」
と少し不機嫌になった彼女が顔を近付けてきた。
「ごめん、聞いてる。それで…」
「うん。続きなんだけどね」
再び彼女は楽しそうに話し出した。中瀬くんの話は終わっていないようだ。