素直になれない
行ってきます。
父も弟も先に出勤登校してしまい、これから家に一人きりになる母に言った。
七海の声に気付いたのか、洗面所からひょっこりと顔を出し母は陽気に笑う。
「――楽しんできなさいよ」
着慣れない制服に身を包み、真新しいローファーの音をさせて道路を歩く。
…と言いたいところだが生憎、ローファーは前から使っているのを流用している。
七海の心境を写すように靴音は軽快に響く。
楽しげに口元に笑みを刻んだ七海は、もはやスキップといえる歩き方で進んでいた。
それを本人に言ったところで、七海は絶対にスキップだとは肯定しないだろうけれど、何はともあれ高校まであと少しの距離だ。
反対側の道路に移るために歩道橋を越え、階段を降りている途中で七海は気付く。
七海の行く先からこちらに向かって近付いてくる男達がいるのだ。
髪を金色や明るい茶色に染め、耳には幾つものピアスを付けている男達が三人、七海のほうに向かって歩いてくる。
歩道を埋め尽くすかのように広がって歩く彼らに、内心微かな苛立ちを覚えた七海だったが今は学校に急ぐ方が先決だ。
足元を見詰め足早にその場を去った。