素直になれない
「――こんなやり方でしか自分を主張出来ないんだな。・・・哀れだ」
七海が握り締めた拳が必要になることはなかった。
すっと七海の前に影が点した。
目の前が黒一色に染まり、肩に回された腕が外されたのが分かる。
はっとして見上げてみると不機嫌の極みという表情の男――この場合は青年と言ったほうが正しいだろうか――が七海に触れている男に凄みをきかせた視線を送っていた。
「それと朝っぱらから街中で溜まっていられると、邪魔」
そう言って青年は未だに男の手を掴んでいた自分の手に思い切り力を入れた。
その瞬間に苦痛に歪められる男の顔。
男の取り巻き二人がその事実に驚倒し、それから弾かれたように青年に掴みかかろうといきり立ったが、殴りかかる前に男が空いていた手を上げて阻止した。
瞠目し男を見る取り巻きは、何故、と口を開きかけたが男はそれさえも許さない威圧感を放つ。
「まだ青い餓鬼のくせに、随分な物言いだな」
腕を捕らえられていてもなお、男は怯む様子を見せない。
いい加減に諦めてもいい頃なのに、と七海は内心で頭を捻る。