素直になれない
不意に青年が視線をこちらに向けた。
驚いて思わず身体を震わせてしまった七海であるが、そんなことお構いなしと青年はこちらを見据えてくる。
七海の方こそ凝視していた立場であるので当然、青年とは向き合って見詰め合う形になる。
その漆黒の瞳に見つめられた瞬間、七海は深い海に沈み込むような感覚を覚えた。
予想以上の深さだった。青年の瞳は。
一瞬にして不快感とはまた違う、けれど決して心地の良いものではない何とも言い表しがたい感覚が芽生える。
靄が胸をくすませる。
頭を左右に振り思考を振り払った。
もう一度青年に目を向けてみる。
そこでやっと青年が着ている服に見覚えがあることに気付いた。
何を隠そう、七海が今日から通う高校の制服だったのだ。
同じ学校なら話は早い、と七海は徐に口を開いた。
「助けてくださり、ありがとうございました」