ヘタメガ!
美姫は走った。
5階まである校内を走り抜けた。
目指したのは屋上。
いつもの待ち合わせ場所。
手には号外が力いっぱい握りしめられている。
息を乱したまま、勢い良く屋上の扉を開けた。
「ハァハァ…ハァ…ハァ…」
開いてる…ということは。
「ハァハァ…クッ…ハァハァ」
先輩は、いる。
屋上の隅の方に、仰向けに寝転がった先輩がいた。
こちらに気が付いているだろうが、見ようとはしない。
先輩の綺麗な顔には、戦った勲章のあとがいっぱいあった。
ファンの子達からは悲鳴が上がるに違いない。
「先輩…。」
しばらく反応しなかったが、
ゆっくり、先輩は起き上がり、今度は真っ直ぐ私をみた。
笑顔がない。
笑顔がない先輩を見るのは初めてかも知れない。
「…あの、先輩。これ、…見ました。」
美姫は珍しく、おずおずと号外を開く。
そこには、逆に恥ずかしい格好でぐるぐる巻きにされた新聞部部長が光悦とした表情で一面を飾っていた。
傷を見れば、誰がこれをしたのか明白だった。
そして二面には特集として崇城先輩の真実の女性遍歴と今の心境が載っている。
今までの謝罪の言葉や誤解への弁解。
何より今夢中な人が居るのでお誘いお断りの文字。
美姫は淡い期待を抱きながら、先輩の言葉を待った。