BABY×DOLL
私は心の中で声をかけた。

"行こう…しばらく私達と一緒に住むのよ。ヨロシクね"

龍之介を抱き上げ、見えない場所に予め用意しておいたバスタオルを取り出して彼をくるんだ。

生まれたばかりの小さな赤ん坊は壊れそうなほど繊細だ。

標示体重で生まれたのに、いつもより余計小さく感じるのは何故なんだろう…

──セリカに運べるだろうか…?

途端に不安になったけれど、迷っている時間はない。

『やる』と決めたのだから────

私は龍之介を胸にしっかりと抱き、半ドアにしておいたドアを静かに開けた。

ゆっくり廊下に顔を出し、辺りを見回す…

誰もいない
誰もこない

通常なら…誰も廊下には出ないハズだ。
今夜もいつもと変わらないハズよ…

そう自分に言い聞かせながら思い切って廊下に出た。

今、誰かに見られたら…言い訳も言い逃れもできない。

靴を履いていない足に床の無機質な冷たさが痛く感じるはずなのに、相変わらずドキドキいってる心臓のせいで何とも思わない。

私は止まらずに、セリカが待っているはずの場所へと向かった。


長く続く廊下の終わり…それはかつて、正己の待つ診察室へと向かう為に歩いた場所でもあった…
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