BABY×DOLL
それからホームに出ると、大した時間もおかずにやってきた東京方面行きの電車に乗り込んだ。

中は朝早いせいか客もまばらで、あたしは安心して人の少ない方のシートに腰かけた。

暖房がきいてて、少しだけホッとしてしまう。

はー…疲れた…

でもよかった。上手く電車に乗れたし、今のところ誰かが追ってきてる気配もない。

今頃…赤ちゃんが居ない事が発覚してるんじゃないのかな…?

琉嘉…平気かな?

向こうも心配だったけど、どうする事もできない。
あたしは自分の事でいっぱいいっぱいだった。

赤ちゃんが居ない事が知れたら、警察とか呼ばれるんだろうな。

病院内はかなり騒がしくなるだろう。
それと同時に、母親になった仁奈と…きっと虎にも伝えられる。

──彼はどんな顔するだろう?
彼はどんな事を感じるだろう?

生まれたばかりの
愛する彼女との間に出来た結晶を失って

悲しむ?
苦しむ?
悔しい?

…あたしの方が、比べものにならないくらい、その感情を体験したよ?

でも数日だからね?
ちゃんと返すから…

反省してね───



虎之介の事ばかり考えていた時、持っていたバッグの『中身』が動いた。

「…っぁ―――…」
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