境の娘
「あぁ、汐祢さまのことかい?」
「可哀相にねぇ。一つ目にさらわれたせいで…」
「しっ。長者さまの家のもんに聞かれたらどうするんだい」
「いけないいけない。ここだけの話にして黙っておいておくれよ」
「…あれはいつの話だったかねぇ」
「川下んとこの子が生まれた頃だよ」
「あぁ、騒ぎで祝いどころじゃなかったって言っていたからね」
「確か二月の事始めの…」
「そうそう」
「あれ以来汐祢さまは臥せたままだわ、末の娘も亡くなるわ、長者さまの家は災難が続いたねえ」
「あら、末の娘なんていたかい?」
「汐祢さまじゃなくて?」
「違うよぉ、あれだよあれ」
「あれって何さ」
「別腹の……そういや、あんた。その右目、どうしたんだい?」