境の娘
飴売りは里を回り、一番外れにある屋敷へたどり着いた。
後ろについて回っていた子供たちも、いつの間にかどこかへ散ってしまった。
他に面白いものでも見つけたのだろう。
外れにあった屋敷は、里から忘れられたかのように静かだった。
飴売りは山側へ回り、障子戸を叩く。
「汐祢さま、飴は要りませんか?」
返事はない。
飴売りは障子をそっと開ける。
そこには緋色の着物を着た娘が座っていた。
足元には色とりどりの千代紙で折られた鶴が散っている。
「いらないわ」
娘が答えた。
飴売りは被っていた笠をあげる。
「…お迎えにあがりました」
手を差し出した飴売りの方へ、娘は視線を移した。
娘の細い手が飴売りの手に重なる。
それは、ずっと夢見た白さだった。