境の娘
近くで啜り泣く声がし、背後を振り返った。
そこには、同じ年端ぐらいの娘がいた。
その姿には見覚えがある。
いつも汐祢に言伝をする時に見ていた顔だ。
汐祢を探して山へ入り、迷ったのだろう。
「だれ?」
娘が首を傾げる。
「ひとつめこぞう?」
兄と汐祢を探す提灯の明かりが、遠くでゆらりと揺れた。
「一つ目小僧が姉さまをさらったのでしょう。
…きっとわたしの家にざるを飾らなかったせいだわ」
無垢な声で娘は淡々と続けた。
「わたしも一緒にさらわれてしまいたかった」