なまけ神
「あ、じゃあ弟さんにも食事運んで来ますね」

美樹が立ち上がる。
が、僕は慌ててそれを制した。

「いや、俺が行くよ。美樹さんはご飯食べてて」

「でも……」

「弟に話があるんだ。だから僕が行くよ」

「そうですか? すみません、じゃあお願いします」

美樹さんから御盆を受け取って、僕は廊下に出た。

僕が食事運びをったのは、安藤美樹さんについて、本物の「神戸」に聞きたいことがあったのだ。

廊下の突き当たりに来ると、そこのドアをノックし、開いた。

薄暗い部屋。
窓を開けていないせいか、少し蒸し暑い。

無機質な部屋に蜜柑の皮をぶちまけただけの部屋の一角に、もそり、とナマケモノのように動くベッドがあった。

「神戸さん」
先程まで美樹に「神戸」と呼ばれていた男は、ナマケモノに向かってそう言った。
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