なまけ神
それから、彼女と俺は近くのカフェへと移動した。
彼女もその場に居たたまれなかったのだろう、素直に顎を引いた。
「で、女の子が一人、あんなところでなにをしてたの? 俺、昨日も君をあそこで見た気がするんですが」
待ち合わせにしては長いな、と思いながら訊ねた。
そんな友人には蜜柑三袋奢らせるべきだ、と。
少し押し黙っていた彼女は、口を開いた。かと思うといきなり「美樹です」と言い出したから、俺は目の白眼を増やした。
「美しい樹木って書いて美樹。歳は十七」
捲し立てるかのように彼女は続けた。
丸一日コンビニにいたという理由を言いたくないのだろうか。それにしては強引な誤魔化しだった。
それから彼女は趣味や家族構成から、初めて彼氏が出来た日にちまで、明らかに初対面の人にぶっちゃけるべきではないことまで早口に喋った。
そうして、彼女が自分の携帯の機能について述べ終わり、一段落ついたかと見えた。
けれどまた彼女はえいっ、と何処かに飛び降りるような決心をしたかの如く固い表情をした。
「あのっ、私をあなたの家に置いてもらえませんか」
彼女が頭を下げる。
「え」声が出た。
ちょとまってくれ、話が急展開過ぎる。
俺は瞼を何度も開閉させながら、彼女のつむじを見つめた。