hiding
放課後になると、菜々子は塾だから先に帰ってしまった。私は塾なんて続かないから、親が教育に熱心じゃなくて良かったと、この時ばかりは思う。

ケーキの材料を買うつもりだが、昨日の事があるからあのスーパーには行きづらい。時間もある事だし、遠くの大型店にでも行ってみよう。

歩くと結構な距離だが難なく辿り着いてホッとする。人気もあるし道も広いし、安心安心。

チーズやらバターやらの入った袋をぶら下げて店から出た頃には赤紫っぽい空が広がっていた。急がないと日が落ちちゃう。

足早に歩き始めると、何人かの学生が前から歩いてきた。高校生かな。随分賑やかだ。部活帰りだろう、サッカーボールを蹴っている。

そういえば、橘君ってサッカー好きだったっけ。懐かしくなって顔が綻んだ。

サッカー青年の集団とすれ違う瞬間。

目が、合った。

1秒にも満たない一瞬。けれど確かに視線で繋がった私と…

「橘、君?」

私はゆっくり振り返った。どんどん小さくなっていく集団。賑やかな笑い声がまだ微かに聞こえる。

私はまた歩き出した。

ごめんね、橘君。今はまだ、会えないの。まだ昔の私のままだから。

でも、いつか会いに行くから。橘君のキラキラが平気になったら。だから、待っててね。

空は半分程暗くなり始めていた。
< 12 / 67 >

この作品をシェア

pagetop