hiding
「紫陽花はね。辛抱強い愛っていう花言葉もあるんだよ」

紫陽君は、え、と小さく漏らして目を大きくした。

私は紫陽君に背を向けて、紫陽花にまた向き直った。紫陽花を、雨粒が伝った。

後ろで、何だよ移り気とか愛とか正反対じゃねえかよ、とごにょごにょ呟いているのが聞こえた。

「きっと、こんなふうに雨にうたれながら、ずっと誰かを待っているように見えたんだよ」

呟きが止まった。雨の音だけ聞こえる。

「紫陽君って、良い名前だね」

私が微笑んで振り返ると紫陽君はバツの悪そうな、照れたような顔をしていた。

「…そりゃどうも」
「ねぇ、たまには雨に濡れて帰るのも良いと思わない?」

言うが早いか、私は傘を閉じた。途端にギョッとする紫陽君だが、否定はされなかった。

「風邪ひいたら薺菜のせいだからな」
「小雨だから大丈夫。…多分」
「多分って何だよ」
「大丈夫だって。ナントカは風邪ひかないから」
「おい、俺の事馬鹿って言ったのか」

言い合いながらも雨をかぶって帰った。紫陽君はどこか嬉しげだった。

翌日私達が風邪をひいたのは言うまでもない。土曜日で良かった。
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