hiding
「ぐすっ……」

いつまで泣いてても駄目だ。進まなきゃ。頼れるのは自分だけなんだから。

意を決して立ち上がったのだが、恐怖のせいか足がガクガクして歩けない。

また涙が溢れそうだと思ったら、足音がこちらに近づいてきた。

この際、道案内してくれるならお化けでもいいや。

「あの、」
「こっちだよ」
「あ…えっ!?橘君?」

声を聞いて驚いた。どうして橘君がここに?まさか…

「橘君幽霊になっちゃったの?」
「…生きてるから」

橘君は私の手を握ると歩き出した。私は離さないようにきつく握り返した。

「何で橘君がここに?」
「あぁ、佐倉の友達がお寺に来てさ。俺そこの住職の甥っ子だから、駆り出された」
「そっか、ごめんね。…ありがと」

暗くてよく見えないけど、橘君はぐんと背が伸びていた。繋いだ手も、大きくて温かかった。

「ねぇ、橘君」

言わなきゃ。あの時のお礼と謝罪を。ちゃんと伝えなきゃ。

「私、……」

急に辺りが明るくなった。林から、抜け出したようだ。

「薺菜ぁぁぁぁ!!」

菜々子が飛びついてきた。橘君と私の手は自然に離れた。

橘君が遠ざかって行くのが見えて、私は慌てて引き留めようとした。

「橘君、待っ……ぎゃぁぁっ!?」
「薺菜ごめん!!」
「大丈夫か薺菜!!」
「怪我はないか!?」

菜々子の上から3人が押し寄せて来て、私はもみくちゃになってしまった。

やっと抜け出た時にはもう橘君の姿はどこにもなかった。
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