hiding
次は、緋山君。私達は図書室に来ていた。

本の独特の匂いが私達を包む。音がしなくて、でも落ち着く静けさで。

「夏休みとかここで勉強したね」
「そうだね」
「勉強教えてくれて助かったよ、先生」
「だ…先生はもういいって」

いつもの場所に座ると、ふと気になる事を思い出した。

「先生はいっつも何か書いてたけど、あれなあに?」
「あー、その…笑うよ?」
「笑わないよ、私」
「…僕、小説を書いてた」
「小説?どんな?」
「青春小説なんだ……僕らがモデルの」

ぐっと来た。心をぎゅっと掴まれたような、そんな感じ。鼻の奥がツンと痛くなった。

「…完成したら読んでもいい?」
「勿論。佐倉に最初の読者になってもらおうと思ってた」
「ありがとう…」
「うん」
「ありがとう、先生」
「………」

たまらずに泣いてしまった私の頭を、緋山君が不器用に撫でてくれた。

ごめんね。笑顔でサヨナラしたかったのに。涙腺が緩くて仕方ない。

不器用な、でもとても優しい緋山君に、少し甘える事にした。
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