hiding
最後は紫陽君。珍しく真剣な顔で私の腕を掴むと無言で歩き出した。で、辿り着いた場所は、

「…プール?なんで?」

うちの学校は水泳部が強くてそういえば室内にプールがあるのだけど。プールサイドに来て、私達はやっと向かい合った。

「俺、昔水泳やってた」
「え」
「でも海で親父を亡くしてから、嫌いになった」
「お父さんもしかして…」
「ああ、ライフセーバーだった」

きっと紫陽君は小さい時からお父さんに憧れて同じ職業を目指していたのだろう。紫陽はどこか遠い目をしていた。

「俺さ、やりたい事とかわかんなかった。けど薺菜見てたら、親父の後を継ごうと思えたよ」

紫陽君が私を抱き寄せた。少し震えているのがわかって、私の涙腺はまた緩み出した。私は力一杯抱き締め返した。

紫陽君が不意に重心を傾けた。もがいたけど私達はしっかり抱き合っているので、時既に遅し。え、や、落ちる!!

ざばーん。

がぼがぼっ…。私泳げないのに何してくれてんだー!!

薄れゆく意識の中で、紫陽君の呆れ顔が見えた。
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