青蝶夢 *Ⅰ*
遠い昔・・・

秘色の深い悲しみ、深い傷口に
伊吹は気づいていながら
彼女を助ける事無く一人きりで
あの街を出て行った。

ううん、本当は、毎夜眠らずに
秘色を連れて逃げる事を
考えて、考えて、考えた挙句

結局、答えなんて出なかった。

18歳のガキに、9歳の女の子を
連れ去る勇気なんて持てる訳が
なかった。

『今の俺なら

 お前を守ってやれる・・・』

この腕に、私は何度
抱きしめられただろう

この胸で、私は何度
涙を流しただろう

貴方はいつも、私の全てを
包んでくれる・・・

「イブキ・・・
 ヒイロちゃん、大丈夫?」

伊吹さんも私も

茅野さんの存在を

すっかり忘れてしまって
いた事に気づき、慌てて
離れた・・・
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