青蝶夢 *Ⅰ*
『愛を知っても

 知らなくても

 私は、抜け出せない

 囚われの身・・・』

洗面所を離れる放心状態の私に
玄関のドアの外から、微かに
聞こえる声・・・

「昨日、私が言ったとおりに
 なったね・・・イブキ?
 こうなる事は分かっていた」

「カヤノ・・・」

「だから、私は昨日泣いて
 あの子を、あなたから
 遠ざけてほしいと
 願ったの・・・
 
 ヨシノがいない家に
 彼女と二人っきりで
 暮らさないで
 
 そう、言った」

「カヤノ」

伊吹の手が、茅野に触れよう
とした、その時

茅野は、伊吹の頬を
力いっぱいに打った。
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