青蝶夢 *Ⅰ*
涙を流すほど、伊吹は秘色を
愛している。

ううん

イブキが涙を流すほどに
愛しているのは・・・

私じゃない・・・

荷物を持つ芳野、その隣に
私は立つ。

「忘れ物はないか?」

「はい、イブキ
 貴方との、思い出は
 全て持って行きます

 今まで、私の事を
 面倒みてくれて
 ありがとうございました」

私は、深く、頭を下げた。

それはまるで、花嫁が父親に
感謝の言葉を述べるように。

伊吹は、何も言えない。
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