【長】はるいろ
「ちょっと、あたしがいながらなんでそんな子のとこになんかいくの!?」
着替えてきた女性は、キンキンと高い声を怒鳴り散らす。
あたしは気まずさから、その女性から視線をずらし彼を見た。
彼は彼で、鼻歌なんかをうたいながらお茶をいれている。
「聞いてんの、光希!!」
「あ〜、聞いてるよ。
もうお前いらない、帰っていいよ」
「なっ……。しょせんあんたなんてそんな男よね」
女性は捨てぜりふをはき、部屋を出ていった。
バタンッ、という大きな音が聞こえたあと、さっきまでと打って変わって沈黙が流れる。
「えっと〜…あっ、ハルちゃん!ごめんね、変なとこ見せちゃって」
はい、と置かれたマグカップ。
春らしい花の絵がかかれている。
まるで、甘いスイーツみたいな淡いピンク色のマグカップ。
男の人の二人暮しだよね?
…あきらかにこれ、女物。
「あの…、さっきの人って」
「んっ?大学の知り合いかな」
「彼女じゃないんですか?」
「まあね。あっちには彼氏いるし」
いわゆる浮気ですか。
淡々と話す彼の表情は、悪びれた様子なんてちっともなくて。
逆になんだか清々しい。