禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
ウィークリー殺人の記事を書くのにも慣れてしまったことに、溜め息が漏れました。デスクは、そういう時のために無感情になれるスイッチを用意しろと言います。驚かない動じない悲しまない喜ばない、ただ、無感情に、機械のようにキーをタイプできる精神のスイッチを。できれば楽なのでしょうが、どうして情動的なものがつきまとってしまって、なかなか。

記事を書き、写真を添付し、一仕事を終えて、椅子に思いきりもたれ掛かりながら背伸びをした時、左からヌッと黒い円筒形が現れました。専用の紙コップに注がれ、湯気をやわやわ吐き出している、コーヒーです。見上げると、「お疲れ」と微笑だけで伝えてくるデスクがいました。

お礼を言ってコーヒーを受け取ると、デスクは私の隣、新人の中田くんの席に座って、唸りました。

「もう四件目たあな。……いつまで、続くんだか」

「ですね……」

私達マスコミは、たしかに情報を収集し、それを公共へ発信しています。が、真に事件を解明しているのは警察であって、私達はどうしても、彼らの捜査活動の好進展を祈るしかできないのです。そこは、被害者遺族の方々と、同じです。
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