禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
一口コーヒーを飲み、それを中田くんの机に置いたデスクが、床を蹴りました。座っている椅子はキャスターつきなので、デスクの体はさーっと滑り出します。そして、背もたれからデスク自身の机に衝突して停止。デスクは、自分の机のファイルをひとつ掴むと、今度は机を蹴飛ばして帰ってきました。私に、取ってきたファイルを開いて見せます。
「辻井、お前はどう思う? この事件」
「どうと言うと?」
「そうだな、犯人像とかな」
「難しいこと聞いてくれますね」
警察でも犯人のプロファイリングは困難だとされるのに、素人の私にそれを訊ねますか。
「いんだよ、別に、記事にするわけでなし。テキトーに答えて」
「テキトーと言われましても」
実際に遺族の方々に会ってきただけに、野暮なことは口にできません。親御さん達の、現実を真っ向から否定し、認めたがらない目は声は表情は、この一ヶ月ですっかり脳裏に焼きついてしまいました。
ただ、だからこそ言えることもあります。私は、デスクからもらったコーヒーに口をつけてもいないのに、なにか苦いものでも飲み下したように眉をひそめました。
「辻井、お前はどう思う? この事件」
「どうと言うと?」
「そうだな、犯人像とかな」
「難しいこと聞いてくれますね」
警察でも犯人のプロファイリングは困難だとされるのに、素人の私にそれを訊ねますか。
「いんだよ、別に、記事にするわけでなし。テキトーに答えて」
「テキトーと言われましても」
実際に遺族の方々に会ってきただけに、野暮なことは口にできません。親御さん達の、現実を真っ向から否定し、認めたがらない目は声は表情は、この一ヶ月ですっかり脳裏に焼きついてしまいました。
ただ、だからこそ言えることもあります。私は、デスクからもらったコーヒーに口をつけてもいないのに、なにか苦いものでも飲み下したように眉をひそめました。