禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
禁煙を始めたのはつい昨日のことですのに、まさかそれを忘れていたと言うのでしょうか。ありえない。……いえ、桔梗さんに限ってはむしろありえて妙なことですが、いくらなんでも。
「あるじさまは禁煙中なのです」
「知ってます。私きのう、その禁煙宣言の場にいましたから」
「さようにございますか」
筆記の手を止めてわざわざ教えてくれた香蘭さんは、柳の下に幽霊が現れるようにス……、と、立ち上がりました。叩きの駒下駄を履き、私の横を通り、店内の右側へ。そこからシガチョコと、例の、『見ずに溶かすよりも粉のまま食べたほうが美味しい』粉ジュースを数種取って、戻ってきます。
「どうぞ、あるじさま」
「ん。面目ない」
面目ないと本当に思っているのか、まったく、ただ世話の焼ける大きな子供です。それらを受け取った桔梗さんは、シガチョコを番台に置き、粉ジュース数種を片手に奥へ引っ込んでいきました。おそらくまた、あのえもいわれぬ怪しげな臭いと色の飲み物を作るのでしょう。さんざ不味いと文句を垂れていたのに……。禁煙中の人はコーヒーを飲んだりあめ玉を舐めたりいろいろして、気を紛らすそうです。桔梗さんにとって、あれがそれでしょう。
「あるじさまは禁煙中なのです」
「知ってます。私きのう、その禁煙宣言の場にいましたから」
「さようにございますか」
筆記の手を止めてわざわざ教えてくれた香蘭さんは、柳の下に幽霊が現れるようにス……、と、立ち上がりました。叩きの駒下駄を履き、私の横を通り、店内の右側へ。そこからシガチョコと、例の、『見ずに溶かすよりも粉のまま食べたほうが美味しい』粉ジュースを数種取って、戻ってきます。
「どうぞ、あるじさま」
「ん。面目ない」
面目ないと本当に思っているのか、まったく、ただ世話の焼ける大きな子供です。それらを受け取った桔梗さんは、シガチョコを番台に置き、粉ジュース数種を片手に奥へ引っ込んでいきました。おそらくまた、あのえもいわれぬ怪しげな臭いと色の飲み物を作るのでしょう。さんざ不味いと文句を垂れていたのに……。禁煙中の人はコーヒーを飲んだりあめ玉を舐めたりいろいろして、気を紛らすそうです。桔梗さんにとって、あれがそれでしょう。