禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「ふぅむ、ちょうどよいから、聞いてくれんか」

「なにをですか?」

訊ね返すと、彼は黙り込みました。そして、コップの中でコポコポ小さな泡を立てる怪しげな飲み物を掴むと、喉仏を上下させながら一息、飲み干しました。青汁より不味そうなそれを飲んだ彼は、音を立ててカップをおきました。据わった目が、ジッと私を正面から。

「俺ね、禁煙することにしたわ」

「はあ。それはぁ、よいことだと思います」

近頃どんどん高くなってるようですし、健康にもよくありませんし、なにより駄菓子屋の店主がキセルを昼間からぷかぷかというのも気になっていたことです。

私は、地域雑誌の編集者です。桔梗さんとの出逢いも、地域に残る年代物の家屋を取材しているうちに、知り合いになりました。その時から思ってはいたんです。

駄菓子屋の店主がキセルを吹かしていていいのか。

ひとつ十円や二十円、三十円やらのお菓子は、近所の子供も頻繁に買いに来てるようです。その店主が、店の中に煙を充満させてるとあっては……。

うーむなるほど。ともすればさっきの不味そうな一杯は、桔梗さんなりの、誓いの盃だったのでしょう。私に聞いてもらうことで決心も確固となる、と。
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