禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
ピンポーン♪

よく聞くインターホンでした。家の外観も白い洋風、窓が大きくて、二階にベランダがあって、小さいけれど芝生の庭がついて、足りないのはゴールデンレトリバーだけというほどお洒落でした。きっと、モデル住宅をいくつも回って、堅実に建てたんでしょうね。

なのに……否応なく感じてしまいます。重苦しい空気を。夕暮れも過ぎてしまっているせいか、家の全景がわずかに黒くくすんで見えます。争議が執り行われる家も、似たような空気なのです。空気の淀んで、濁って、なにか臭っているような……だれでもそうでしょうが、あまり、好きな空気ではありません。

『はい。どちらさまでしょう』

「あ、どうも、こんばんは」

出たのは、声からしてここの奥さんでしょう。落ち着いていて、とても柔らかい声でした。声は大事です。インターホンならなおさら。いいお母さんっぽい感じですね。これなら私も、気兼ねなく『善い人』を演じられます。
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