禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
げぷっ、と、あからさまなげっぷを桔梗さんがしました。いつもお店の中、日陰にいて白い顔を俯けて、口を押さえます。

「……うぷ。さすがに今のはちぃと不味いのう……。こんなのを平気な顔して飲む子供の気持ちが知れん……」

「それを売りつけてる人が言いますか。というより桔梗さん、それ、溶かして飲むより粉のまんま口に入れたが美味しいですよ?」

「粉のまま? ほぉ~」

「……知らなかったんですか?」

「うむ。珍妙な食い物よな」

「あー……そうですね」

駄菓子屋を営んで長い、と彼は取材の時に言っていました。が、自分の店に並んでいる駄菓子の食べ方も知らないのですから、そちらのほうが珍妙です。

「あるじさま」

「おや、なんだね、香蘭」

ああ、この倭ノ宮駄菓子店の奇妙さに拍車をかける人が出てきました。

彼の座る番台より奥の、桔梗さんの自宅へ続く襖を開けて出てきたのは、チャイナドレスに割烹着というキテレツななりをした、娘さんです。短い二本のおさげがかわいらしいのですが、だからこそ、こんな女の子がどういう理由でこの駄菓子屋にいるのか、桔梗さんを〝あるじさま〟なんて呼ぶのか、皆目見当もつきません。
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