禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
切れ長の眼をにんわりと細めた桔梗さんが、ずりずりと横へ移動しました。たたきに足を投げ出し、素足にブーツを履き始めます。

「やれやれ、せっかくの大ヒントだったのにのぅ。辻井さんや、アンタはどうにも探偵になれん気質らしい」

「なっ。べ、別に私は探偵になるつもりはありませんよ! 私はただの雑誌記者ですから!」

「だが、ことの真相は気になる、と」

「それは、まあ」

探偵とは違った意味で、真実を追い求める職業ですから。

「さて、と」

立ち上がれば私よりもさらに頭ひとつ大きい桔梗さんに迫力がないのは、彼があまりに細いからです。着崩している着物の胸元も、叩けば割れてしまいそうな胸板ですし。いっそ、病的ですよ、この人はまったく。

「香蘭」

「はい」

戸が開いて、奥から香蘭さんが出てきました。彼女も、駒下駄を履き、香蘭さんの横へ並びます。なぜでしょう、まったく性格の違う二人なのに、並び立った途端に様になりました。信頼し合った主従関係――とでも言いましょうか。
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