禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
駄菓子屋のお手伝い・香蘭さんは、番台の横を抜けて、たたきに置いてある自分の駒下駄を履きました。ちなみにその横には、桔梗さんのブーツが。洋服はないのに靴はブーツしか持っていないという、また奇妙なこだわりのようです。

「では、少々回って参ります」

「ふむ。早めに戻るようにの」

「はい」

チャイナドレスに割烹着、駒下駄の香蘭さんがゆったり歩くたびに、かろ、から、軽快な音がします。私に丁寧な会釈をした彼女は、静かに店を出て、左へ折れてゆきました。

「香蘭さん、どちらへ?」

ただ番台に座っているだけの桔梗さんと違い、この駄菓子屋の雑務をすべて担っているらしい健気な少女が、日中からどこへ行こうというのでしょう。いえ、まだ日も照る昼過ぎ。彼女の年齢なら学校へ行くのが当たり前なのでしょうが、彼女は学生ではないようなのです。実年齢は聞いていないにせよ、中学生ぐらいのはずで、ならば義務教育でしょうに。それを無視したとしても、香蘭さんが倭ノ宮駄菓子店を空けるのが、異様に思えました。
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