禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「辻井さんや。俺、今言ったじゃろう。犯人はおらん。子供を連れ去った犯人も、一週間も隠しとった犯人も、玄関先に放り捨てた犯人も、おらんのじゃ」

「それじゃ、事件は起こら」

「ただ、子供にはみな、親がおる。家族がの」

「…………は?」

「親じゃよ。事件と呼ばれておるこの儀式を執り行っておるのは」

「儀式……って……」

「ふむ……」

おもむろに空いているほうの手で懐を探った桔梗さんは、小箱を取り出しました。手首のスナップを利かせて、白くて細い棒状のもの……というか、

「シガチョコ、気に入ったんですか」

「気の紛らしじゃて」

ばりぼりできるそれを一本くわえた桔梗さんは、傍目、ただの歩きタバコです。彼があの時、シガチョコを手にした時にはっきり言うべきでしたね。アナタにタバコは似合いません。どうしてもキセルのほうが……と思ってしまいますから。

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