禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
言い返せません。ツテを利用して被害者家族の住所を教えてもらっているのですから。つまり、私の知っていることは警察が先に知っていなければならないのです。

警察が知らないことは、私も知ることができない。

「さてのぅ辻井さん。問題じゃ。なあぜ、両親は子供が失踪したにもかかわらず、警察に通報しなかったんかの。まさか、失踪したことに気づかんかった? 一週間も? 愛しているのに? おかしいのぅ、矛盾だのう」

脳裏にまた、土屋夫人の顔が浮かびました。彼女も、息子さんがいなくなったというのに、まったく心配していませんでした。それどころか、まるで、すぐに帰ってくるような口振りで……。

子供が消えたことを通報しない親。

だのに、変わり果てた姿を見て発狂する。

「桔梗さん……」

「んむ?」

「犯人はいない、って言いましたよね。いるのは、親だって」

「そのとおり」

「……被害者の子供は――、愛されていたんですよ……?」

「愛があればの、人は時に狂気も厭わんよ」

「っ……」

喉に、石でも詰まっている気分でした。言わなければ。

気づかされた事実を、はっきり自分の言葉で肯定しなければ、息が詰まって死んでしまいます。

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