禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「ふむ」と、桔梗さんは顎を撫でます。

「三途の川の渡し賃がいくらか、知っとるかいね?」

「えーと、たしか……六文、でした?」

「よぅ知ってるじゃないか。そう六文。仮に、代賃が足らんとしたらどうなるかの?」

「あの世の金銭事情なんかわかりません」

「ではこの世では?」

「まあ、おっぱらわれますよね」

「同じじゃよ。渡し賃が足らんと、おっぱらわれる。あの世からの」

「あの世からって……それじゃ、死んだ人はどうなるんですか?」

「さあて、のぅ。あの世に行けぬ魂は、どうなるか……。童子ならばやはり、たたりもっけじゃ。この世をさまよい、泣いて、泣いて、いつのまにか消えておる。どこにも行けんのさ。……ただ、それを都合よく解釈した似非儀式が、今では横文字の名前をもらっておるがの」

「……ウィークリー……」

ふふ、と桔梗さんが笑いました。

「やっとわかったようじゃの。お前さんも予想がついたように、子供らを一週間も消したのは、その親じゃよ。もちろん、土くれの銭を掴ませて軒先に放り捨てたのものぅ」

「どうして、そんなこと……」

「子供の幸せを願えば、親は夜叉にもなろうて」

私が気持ち悪いと感じた土屋夫人の笑顔は、その、夜叉のものだったのでしょうか。せっかく落ち着いた鼓動が、怖ぞ気のせいで一拍速まってしまいました。
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