禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「辻井さんや」

「はい?」

「時間が止まればいいとは思わんか?」

「はいぃ?」

「もしも、な。夢でもかまわん。いま、時間が止まればいいとは思わんか? そうすればお前さんは、家の中に誰にも気づかれずに入り込み、本当に子供が家のどこかに監禁されているか、いないか、探ってくることができる。お前さんの疑心も不納得も、なにもかもが解消されるわけじゃ」

子供が家に監禁されている……。

そういわれて私は、初めて、この家に土屋ともきくんがまだいるのを想像しました。

「二階……」

見間違いでもお化けが見えたらイヤだ。そう思っていたのに、どうして私は、窓を見上げられたのでしょう。

たぶんそれはもし本当に閉じ込められているのなら、そこにいるだろうかわいそうな男の子を、憐れに思ってしまったからかもしれません。

「もし、いるとしたら二階です」

「そうか。では、もし時間が止まれば……」

「行きます。この目で確かめます」

膝は笑ってますが、ここで引いては私の中の……ジャーナリストよりももっと根幹のなにかが、腐ってしまう気がしました。

理解できないものを、理解できないと証明しに行く。そんな気分でした。

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