禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
五分というのは、数えたらきっととても長いのでしょう。なにせ300秒ですから。ですが私は、内心とても焦っていました。止まった世界で、私を追ってくるものといえば『五分』だけですが、見えない狂気に――土屋夫人が背後に立っている気がして、急かされるように動きました。

階段をのぼった先には、部屋が三つありました。が、『ともき』というネームプレートのついた部屋が、一番近くに。探すまでもありませんでしたが、簡単に見つかったことがむしろ、私を緊張させました。このドアの向こうに、彼は、いるのだろうか。

ドアノブは、素直に回ります。鍵は、かかっていません。私はほんの1センチだけ、それだけでは隙間すら開かないほど少しだけ、ドアを押しました。

ただのためらいです。けれど、そのほんの少しでも、充分でした。

ドアが、重い。

なにかがドアに当たっていて、それ以上動かないのです。

覚悟を決めるしかありません。

私は一気にドアを開けることにしました。度胸です。思い切りです。――が、思いのほか、ドアを塞いでいるものは重たいようで、そのなにかをドアで押しやりながら開けました。

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