禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
そして、部屋の中を見た私は――なにも、言えませんでした。

桔梗さんに声を出すなと言われていたからではなく、声すら、出せなかったのです。

部屋の中には、やはり、ともきくんがいました。やはり、……やはり、変わり果てた姿で。

ドアを塞いでいたものは、両足が切り落とされ、床に這い蹲ったまま腐敗し始めている、ともきくん自身だったのです。

(これが、親の、愛情なの……?)

子供の幸せを願ったからって、どうしてこんなことができるのでしょうか。

見れば、彼の足には無数の、小さななにかがたかっていました。豆のような、なにか。

部屋中、ところどころ黒い陰のように見えるのは、ともきくんの血液でしょう。なにせ、くるぶしから先が彼のベッドに転がっているのですから。

気づけば、ドアが一番シミだらけでした。シミ……? いいえ。暗いことは暗いですが、ぞっとするほどちゃんと読み取れます。文字ではありません。ドアに、いびつな縦線が入っているのです。何本も何本も。彼の指先が、爪が剥けて血だらけになっていることに気づいたのは、誤算でした。

――ここからだして――

たったそれだけの痛烈な思いが、ドアを縦縞にしたのです。

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