禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
ふと、階段を下りた向かいにある、私が通されたリビングが目に入りました。

真っ暗い部屋の、その、奥で……

人がいます。二人。

近づいて見ると、土屋夫人が、旦那さんに握手をして――

いいえ、あれは……

土屋夫人に、腹部を刺されていました。

「――っ、土屋さん!?」

声を出した、その瞬間でした。

普段なら『聞こえる』とは認識していない、空気の流れるかすかな音が私の耳に蘇り、土屋さんの悶絶する声が、聞こえました。

『夢』が、醒めてしまったのです。

「のよ。――あら?」

と、尻切れトンボの語尾を言い終えた土屋夫人が、私に気がつきました。

「あら、辻井さん? どうして? いつ入りましたの? イヤだわ」

ええ、とてもイヤだわ。どうして、すぐ目の前で崩れ折れた旦那さんを無視して、私をまっすぐ見ていられるのか。

なぜ今も、そんな柔和な笑顔を浮かべていられるのか。
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