禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「気持ち悪い」

ついに声に出した私に、土屋夫人は小首を傾げました。なにもかも自分でやっているのに、自分ではなにもわかっていない。そんな態度です。

「なぜ……」

そんな態度を取っていられるんですか。そして――

「ともきくんを殺したんですか?」

「ともきを?」

「なぜ殺したんですか!」

「……おかしなことをおっしゃられるのね。ともきは死んでませんよ? ちゃーんと帰って参りますもの」

本気で、言ってるんですね。夕方と同じように。足下で悶えている旦那さんも目に入らないくらい、盲目に。

「ともきは、少々旅にでているだけですわ。すぐに帰って参ります。あお三日間……。私、待ってるんですから」

「おかしなことを言ってるのはアナタですよ。今、上の部屋を見てきました。ともきくん、そこで亡くなられてるじゃないですか。殺したのは……アナタです」

「いま、なんて……?」

「? 上を」

「見に行ったの!?」

静寂に慣れていたせいで、体が竦みました。

けれど、それ以上に土屋夫人の体の震えは異常でした。暗闇でも目玉が浮かび上がるほど眼を見開き、長い髪を両手でぐしゃぐしゃにし始めます。
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