禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
不当な罵声を浴びさせられながら、旦那さんは何度も何度も刺されていました。

人が、人を刺している。それが、どれだけ危険なことかは知っていても、どれだけ怖いことかは、実感が湧きませんでした。

ですが、私は彼が刺されるたびに、一歩下がり、一歩下がり、背中から壁にぶつかって、ヘたり込んでしまいました。

臭う鉄臭さに吐き気が抑えられず、目の前が回転します。

いっそ夢ではないでしょうか。視界がこんなに歪んで、回って、ぼやけるのですから、これは夢です。

けれど、そんなはずもありません。

今、夜叉が、こちらを見ました。夢も冷めるような、恨みの目で。

息も荒くなった彼の体が、私へ向きました。すっかり乱れた長い髪の奥から、獲物を狙う目玉が一対。彼女の服が、色濃い液体で染まっています。
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