禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
かわいいはかわいいけれど相変わらずの無表情で、香蘭さんが手をさしのべてくれます。

「失礼を。大変怯えておられましたので」

「だからって、そんなこと聞かないでくださいっ。だいたい香蘭さんだって、そんなこと言われたらイヤに決まっ」

「あいあいほれほれ、辻井さんや、あんまり香蘭をイジメんでくれんかの」

「……桔梗さん……」

いつからいたんでしょうか。香蘭さんもでしたが、玄関の開いた音が聞こえなかったので、気づきませんでした。

というより、

「ちょっと桔梗さん、その手にあるもの、なんですか」

「見たことなかったかいの? 俺のキセル」

「じゃなくてっ、禁煙は!」

「仕方ないんじゃ、仕方ないんじゃよ。吸いたくて持ってこさせたわけじゃないから、そうカリカリ言わんでくれんか」

「持ってこさせたって、香蘭さんに頼んだのはそれですか!」

この人は、空気をぶち壊す天才でしょうか。足下で土屋夫人が呻いているのを忘れてしまいそうになります。

いえ、忘れたいのかもしれません。こうして二人に突っ込んで、今もまだ滲んでいるイヤな汗をごまかしたいのかもしれません。

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