禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
じっ。

摩擦音がして、急に明るくなりました。桔梗さんが、マッチでキセルに火をつけたのです。いったいいつタバコを詰めたのでしょうね。吸うつもりじゃないという言葉が嘘に聞こえます。

「ふー……。土屋さんや」

「っ……ぅ」

「聞こえてはおるわな。まあ、香蘭には『動けなくせぃ』としか言わんかったしの」

なにをさせたか知りませんが、それを実行できる香蘭さんは、改めて何者ですか。

すぅ……じじ……。

暗闇にぼんやり浮かぶ、蛍大のオレンジ。そして続く、紫煙。

桔梗さんの顔は、そんな中でもなお、白く、そして今は、とてもおっくうそうに見えました。

「お前さん、死んじまったというその子供に、逢いたいかね」

「え……」

桔梗さんに振り返るため、廊下で仰向けになった彼女は、自分の胴体をひたすらに抱き締めていました。まさか香蘭さん、内蔵を破裂させていたりしませんよね。

「……でも、私、決まり事、破ってしまって……破られてしまって……ともきは、そのせいで……」

じろりと、眼球が私に。破られたも、そのせいも、なにも。自分で殺したんですから、はなから逢えるはずがないのです。

桔梗さんも、どうしてそんな……。

「『夢』ですか……桔梗さん」

「ん、まあの」

煙をわっかにして吐き出し、吐き出し、わっかっか。そんな、どこかの怪盗三世みたいな芸当を見せながら、桔梗さんはもう一度問います。

「で、土屋さんや。ともきくんだったかぃの。逢いたいかね」



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