禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟




倭ノ宮駄菓子店は、ひまわり通りの横道を入った先にある、さびれているけれど潰れない老舗です。扱っているのが一個十円やら二十円やらの駄菓子なので、夏休みともなれば子供が毎日のようにやって来ます。もっとも、それを相手にするのは店主である桔梗さんではなく、まだ中学生くらいなのに学校はどうしてるの? と問いたくなってしまうお手伝いさん、チャイナドレスに割烹着、短い二本のおさげがチャームポイントの香蘭さんです。年がら年中病気してそうなで、番台から動かず、いつもいつも太宰治的頬杖を研究しているご店主さまは、子供が来ているというのに今日も今日とてキセルをぷかり。店内に煙が充満しているのは、まったくいただけません。もっとも……お客である少年少女達はみんな身長が低いため、天井から溜まっている煙には頭が届いていないのです。煙たいのは私だけ。なにこれ。

ですが、注意はさせていただきます。

「桔梗さん。結局禁煙できていないじゃないですか。なに吸ってんですか、平然と」

「いや、辻井さんや、これはの、こないだの禁煙の反動というか」

「要するに、負けたんですね、ニコチンに」

「ニコチン? なんじゃ、そりゃ」

「中毒性物質にございます、あるじさま」

お子ちゃま達から、「こーらん、これいくらー」「こーらん、ねえってばこーらん」と慕われている香蘭さんが、さっくり答えを言います。
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