禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
まったく、有能さが違います。

「そんなことも知らずに吸ってるんですか、桔梗さん。ほんと、奇妙で始まって奇妙に帰ってくる人ですね。肺ガンになって死にますよ」

もっとも、彼の奇妙は性格、知識、思考以外にも及んでいるようですが。

あの日、あの晩……土屋夫人は当然のように首を縦に振りました。息子を殺してからずっと信じて疑わなかった「また逢える」という誘惑に、頷かないはずがありません。

「俺、奇妙かねぇ、香蘭。肺ガンになっちまうのかねえ」

「……常軌の範疇ではない、かと。お気をつけになられませんと、あるじさまとて肺ガンにはなります」

「いやはやなんと、香蘭から見てもかい」

「香蘭さんよく言った!」

起こったのは、……あれもいっそ夢だったのかもしれませんが、一言で言うなら、魔法のような出来事でした。

交わせる言葉はひとつきり。逢えるのはたった一度きり。一足す一の和は再会。桔梗さんはその図式を、空中にキセルで書きました。キセルの軌道に、紫煙を残して。まるでそこに紙があるようでした。

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