禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
逢いたかった、大切に思っている、殺したわけじゃない……とても一言とは思えない感情の濁流を、夫人は口走りました。

けれどなにより覚えているのは、羅列された彼女の戯言ではなく、

――死んじゃえ――

ともきくんの、そのたった一言でした。

「む……。お前さんがた、もうすぐ雨が降りおるぞ」

「雨?」

「晴れてるのにー」

「うっそだー」

「嘘ではございません。もう三十分としないうちに、降ってまいります」

「えーっ」

「傘もってないよー」

「早く帰ろうぜっ」

子供は素直なものです。思ったことがすぐ口にでます。それが、たとえよいことでも、悪いことでも。

「……なぜ、俺の言うことは聞かんのかね」

「ふふん、桔梗さんも、お菓子配りしたらどうですか?」

「ううううむ……」

子供達がいなくなって寂しいのか、桔梗さんんは店の入り口に立ったまま、真っ白く光を反射する外を、じっと見つめています。

それを見ているのも、わりかしすぐに飽きました。

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