禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「桔梗さん……ともきくんの、ことなんですが」

「んん?」

「私、彼の遺体を見たときは気づかなかったんですけどね、前に逢ってたんですよ、ともきくん」

「ほう」

「桔梗さんのモノクルを勝手に借りた、あの時」

「……なんじゃぃ、覚えとったんかぃ」

事件が終わって、すでに二週間が経っていましたが、桔梗さんからはもちろん、私からもあの夜のことはいっさい話にしませんでした。

けれど、それは私が、いろいろ考える時間がほしかったんです。なぜあんな事件が起こったのか。どうして、起こしてしまったのか。納得は、たぶん一生をかけてもできないと、私とは相入れない考えなのだと思いましたが、それでも、整理する時間がほしかったんです。

「桔梗さん、嘘ついてたんですね。そのモノクル、やっぱり幽霊が見えるんじゃないですか」

「辻井さんや。俺は嘘は言うておらんよ。あの時、お前さんが見たのは幽霊じゃあない。あの時、まだともき少年は生きておったからの」

「……ええ」

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